読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

変容する量的・質的金融緩和 池尾(2016)

激論 マイナス金利政策 (日本経済研究センター) 第10章

要約

  1. QQEの波及経路は不明確で、レジーム・チェンジには力不足だった。
  2. マイナス金利政策はよく考えられたものだが、量的緩和と相性が悪く金融仲介機能に悪影響があり得る。
  3. ヘリコプターマネーは物価水準が数倍になることを許容しない限り維持できない。
  4. 現在の財政・国債管理政策は持続性を欠く。

 

QQEについて

2013年時点での予想

当面は7割程度の確率で、資産価格の大きな変動はみられても、実体経済面ではそれほど劇的な変化は起こらないのではないかと考えている。

なぜこのような予想となったのか

中央銀行がコミットメントし、マネタリーベースを増やせば予想インフレ率は上昇する」というロジックが説得的でない。

  • マネタリーベースを増やせば予想インフレ率が上昇するという議論は、ゼロ金利制約の限界を無視している。
  • ただし人々の予想は必ずしも合理的でないため予想の非連続的な変化(レジーム・チェンジ)は起こりうるが、QQEは結果としてマグニチュード不足だった。

QQEの成果

1.円高の是正は大きな成果

  • 2011年以降の経常黒字縮小、欧州の信用不安の低下など、円相場が修正される要因はあった。
  • 円相場がファンダメンタルズに回帰するきっかけを作ったが、マネタリーベースを増やしたから円安になったというものではない。

2.2013年の景気上振れ

  • 財政要因が大きかった。
  • 第2の矢、消費税増税の駆け込み需要。

短期決戦型

  • レジーム・チェンジが起こるとすれば3ヶ月とか半年なので、この間に起こらなければ長く続けても起こらない。
  • 日銀も短期でケリをつけるつもりで「2年で2%」と言ったのではないか。

 

金融緩和の理論

基本的な議論

中央銀行が民間銀行から国債を買うと、(1)中央銀行B/S(ベースマネー)が拡大する、(2)民間銀行のB/Sとマネーストックは拡大しない、(3)統合政府のB/S上で財政赤字ファイナンスするマネタリーベースの割合が増え市中消化国債の割合が減る。

  • 中央銀行と民間銀行の国債売買は内部取引に過ぎない。
  • ゼロ金利制約下での金融緩和は短期金利が下限に達した中で長期金利を低下させるため利鞘を圧縮し、銀行が金融仲介活動を拡大させるインセンティブとならない。
  • 従って非伝統的金融政策では民間銀行の貸出は増えずマネーストックも増えない。
  • マイナス金利政策は銀行の利鞘が圧縮する効果を強化するため、金融仲介機能が弱体化しかねない。

 

ヘリコプターマネー

名目と実質の区別

銀行部門が国債を購入すると名目的な信用創造としては必ず起こり、預金とマネーストックが増える。名目的な信用創造を裏付ける実質的な貯蓄が存在するかが問題となる。

貨幣発行益

  • マネタリーベースは返還義務がないのでその発行で財政赤字ファイナンスできる、日銀は国債を永久に保有できるという議論が存在する。
  • 日銀が国債を永久に保有するということは、発行したマネタリーベースを恒久的に減らさないということであり、これはインフレが進行しても引き締めを行わないことを意味するので、将来的な物価の高騰を覚悟しなければ実行できない。
  • 金融引き締めの際に、マネタリーベースを回収し準備預金の付利を上げれば、恒久的に貨幣発行益を得られるわけではない。

通貨発行益というのは(略)民間部門の貯蓄が裏付けです。民間部門が貯蓄の一部を使わずに貨幣のまま保有すれば、その分を政府や中央銀行が使えるというのが通貨発行益です。…略…貯蓄がないのに信用創造で貨幣を増やせば、それは悪性のインフレにつながることになります。

  • 現時点では民間貯蓄で財政赤字を賄えているが、民間貯蓄が減り始めると問題となる。

 

金融政策と財政政策の関係

金融政策と財政政策が能動的か受動的かで物価の決定に4パターンが存在する。

1.ハイパーインフレ

  • 両方が能動的になると均衡が存在しなくなる。

2.マネタリー・ドミナンス

  • 金融政策が能動的で財政政策受動的。
  • 金融政策で物価が決まる。

3.フィスカル・ドミナンス

  • 財政政策が能動的で金融政策が受動的。
  • 池尾先生「日本の現状はフィスカル・ドミナンスの組み合わせになっているのではないか」。
  • 政府がデフォルトしかねないとき中央銀行は貨幣量を絞れないはずなので、国内貯蓄が枯渇してくる中でフィスカル・ドミナンスが続くと高インフレが生じる可能性がある。

4.複数均衡

  • 両方が受動的だと均衡が不決定になる。