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労働経済学で考える働き方 (経済セミナー2016年12-2017年1)

長時間労働の原因と是正(山本勲)

 超高齢社会で懸念される人手不足に対処するには、女性や高齢者などの多様な人材が労働市場で活躍できる必要があり、そのためには正社員でも効率的に短い時間で働ける環境が必要である。

長時間労働の要因

・労働需要要因

1.労働の固定費の大きさ

労働の固定費用:採用・解雇費用や人的投資(教育訓練)などの労働時間に関わりなく生じる労働者一人当たりの費用を固定費用という。

説明1

生産関数において労働時間(1)雇用者数(2)を別の生産要素と考える。

(1)労働時間(残業の場合)の限界費用=割増賃金率×賃金

(2)雇用者数の限界費用=1人当たり賃金+労働の固定費用

労働の固定費用が相対的に大きければ雇用者数を押さえて労働時間を長くすることが企業にとって合理的となる。

説明2「残業の糊代説」

固定費用が大きいと景気後退期に雇用者数を減らすのは大きな雇用調整費用(解雇費用など)が生じるため、雇用を維持し労働時間を削減することで人件費調整を行う。そのためには平時において十分な長時間労働を確保しておく必要がある。

→日本は労働の固定費用が大きいと考えられる。 

2.人的資源管理の非効率性

日本的雇用慣行の下で定着した長時間労働が常態化し、働き方が硬直化。

3.労働者の交渉力の低さ

労働時間の決定に労働需要側の影響が強く反映され、固定費や非効率な人的資源管理に起因する長時間労働が顕在化しやすい。

企業特殊スキルを身に付けた労働者は転職の交渉力が低くなる。

 

・労働供給要因

1.労働重視の選好

消費を重視する家計は余暇時間が短く労働時間が長くなる。

2.心理・性格特性

行動経済学的な分析:大竹・奥平(2008)など

3.負の外部性

上司・同僚がワーカホリック

4.昇進競争

長時間労働が 企業へのロイヤリティやコミットメントとして機能する。

 

是正策

 ・非効率性によって生じている部分をなくすことを目指すことが重要。

・労働時間の上限規制の強化や法令順守の徹底。

・労働時間を減らしても生み出せる付加価値が減らない効率的な働き方へ転換する必要がある。

 

 

変わりつつある雇用形態(久米功一)

 労働の多様化がすすみ非正規雇用が拡大した。

非正規雇用拡大の要因

・労働需要要因

財・サービス市場の不確実性の高まるなかで需要や収益の変化に応じて労働費用を調整したい企業の存在。

・労働供給要因

自分の集うに合わせて時間や雇用形態を調整できる。

・制度的要因

1996年の労働者派遣法改正など。

 

非正規雇用の実態

1.不本意就労

非正規雇用の16.9%。

2.正社員転換の困難

3.社会的排除

社会保険・年金・退職金などの社会制度へのアクセス制限がる。

4.仕事満足度

パート・アルバイトの仕事満足度は高い(久米・大竹・鶴(2014))。

5.補償賃金

6.制度的揺り戻し

2012年の日雇い派遣の原則禁止など。

 

多様な正社員の進展

職務・勤務地・労働時間等を限定した正社員の活用が進められている。

・働き方を限定することで、賃金低下、スキル蓄積の阻害、昇進・昇格の減少などが懸念されている。

・と様な働き方を推進するうえでスキルアップの機会確保が労使双方の課題。

 

 

賃金はどう決まるのか(柿澤寿信)

 同一労働同一賃金と職務給

個々の職務の価値評価に基づく賃金決定で一般に「職務給」 と呼ばれ、特に非正規雇用の賃金格差是正として取り上げられている。

・職務を点数化し、同水準の職務には同水準の賃金が支払われるべきと考える。

・標準的な経済理論では均衡賃金率は一意に決まるためおのずと同一労働同一賃金となる。

 

日本における賃金決定の現状

職務給は主流と言えるほどには普及しておらず、様々な要素が賃金決定の根拠とされている。

・個人の能力、仕事の業績、学力、勤続年数など

 

賃金決定の理論

・標準的な経済理論

企業:賃金率=限界収入

家計:余暇と消費の限界代替率=実質賃金率

→均衡賃金率が一意

・その他の理論

1.就労条件の違い

同じ職務でも転勤の可能性のなど、悪条件であれば労働者の留保賃金が高くなるので限界収入に補償賃金プレミアムを加えた賃金が均衡賃金となる。結果として悪条件であるほど賃金が高くなる均衡状態が生じる。

2.人的資本投資

興味深いのは企業特殊技能のケース。企業特殊技能は他の企業では役に立たないので、企業特殊技能の訓練を受けた労働者は訓練前の限界収入(₌他社で得られる賃金)より賃金が高まれば、限界収入より多少低くても受諾する。すなわち、転職時の賃金<実際の賃金<理論上の均衡賃金、となる。

3.モラルハザードと効率賃金仮説

努力してもしなくても期待賃金に大きな違いがないならば労働者は努力しない(モラルハザード)。努力の有無で期待効用が大きく差がつくようにインセンティブ設定をすることが必要。「効率賃金の設定は有効である」という経済実験がある。

 

 

最低賃金とは何か(森知晴)

近年の最低賃金の動向

・2006年から2016年の10年間で150円(673→823)22.2%上昇した。

労働市場全体ではほとんど賃金が変化していない。

・インフレ率も10年で2%。

・政府や内閣の移行が強く反映された結果。

 

理論的考察

(1)すべての労働者に恩恵があるのは、雇用を失う人の損失がない場合と買手独占の場合。(2)そうでない場合にも大部分の労働者は恩恵を受けるが失業する労働者は大きな損失となる。(3)賃金を得られる労働者の「賃金格差」は縮小するが、全体の「所得格差」は拡大する。

・完全競争市場

最低賃金導入によって労働量は減少し失業が生じる。しかし大部分の雇用は維持され賃金が上がる。職を失う人の留保賃金が高い(失業の損失が少ない)場合のみ最低賃金が正当化される。

・買手独占市場(企業が1社だけ)

均衡価格が労働の限界生産性を下回っているので、最低賃金導入で均衡賃金上がり労働量も増加する。買手独占市場では最低賃金が正当化されるが、最低賃金周辺の労働で書いて独占となっているとは考えにくい。

・異質的労働者

生産性が異なり代替性のある労働者を想定すれば、生産性が低く均衡賃金が最低賃金より低い労働者の賃金だけを引き上げる。そして賃金の上昇で費用の高まった低生産性労働者から高生産性労働者へ需要が代替される。同質を仮定するより大きな労働者間格差を生み出す。

・効率賃金などの賃金体系

基準となる賃金が上がるので効率賃金に上昇圧力がかかる。昇給などの賃金体系で努力を引き出している場合にも、賃金体系全体への上昇圧力となる。

 

実証研究

 ・Neumark and Wascher(2008)のサーベイ

最低賃金の雇用に与える影響は負とする研究が役2/3。

・鶴(2013)のサーベイ

雇用に悪影響を与えるとする研究が多い。

 

経済学者の見解

最低賃金労働市場全体をみると悪影響(失業率の上昇)を及ぼしている可能性が高く、この悪影響は一部の労働者に偏る。経済学者はこの狭い層への悪影響を重要視している。

 

 

就職活動時期の後ろ倒しは効果があったのか?(奥平寛子)

実証分析の結果

・学生は人的資本投資を増やさない

3年生は参加授業数と投稿日数を増やさず、2年生は両方を減らす。

・卒業時点の就業率を上昇させる

ただしこの点の評価には注意が必要。