論文メモ【計量経済学】

イベント・スタディ

福田・計(2002)「日本における財政政策のインパクト」

金融研究 第21巻第3号 要約 日本における財政政策のインパクト ─1990年代のイベント・スタディ─

 

秋吉・広瀬(2006)「銀行のエクスポージャーと債権放棄における企業銀行間交渉 イベント・スタディによる検証」

http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/06j037.pdf

 

 

VARモデル

中島・渡部(2012)「時変ベクトル自己回帰モデル

Global COE Hi-Stat

自然利子率を低下させるマイナス金利政策 翁(2016)

激論 マイナス金利政策 (日本経済研究センター) 第2章

要約

  1. マイナス金利政策導入の背景は自然利子率の世界的低下。
  2. マイナス金利政策には銀行券の壁がある上、QQEとの併存は副作用をもたらす可能性が大きい。
  3. 黒田総裁はサプライズを好むが経済を不安定化させる可能性が大きい。
  4. 長期的に自然利子率を高めることが重要。

 

長期停滞論

自然利子率とは

  • 完全雇用に対応する利子率。
  • 近年、自然利子率の低下が指摘されている。

世界的に見ても、市場実質金利、実質金利はずっと下がってきているわけです。しかし起きているのはデフレです。そうだとすると、これと比較されるべき自然利子率というのはもっと下がっているのではないか、ということになります。

  • 自然利子率より市場実質金利が低ければインフレ的になるが、現実にはデフレになっているので、実質金利の低下よりも大きく自然利子率が低下しているのではないか

なぜ自然利子率は低下しているのか?

1.アルヴィン・ハンセンの指摘

  • 「元祖長期停滞論」
  • イノベーションの枯渇や人口の減少による投資の減少。

2.その他の要因

  • 低い枝の果実は取り尽くされた。
  • 所得の不平等。

 

マイナスの自然利子率と金融政策

クルーグマン提案(Krugman(1998))

  • 実質金利を自然利子率の水準まで押し下げればよい。
  • 名目金利を下げるのは難しいが、予想インフレ率を上げれば実質金利は下がる。
  • マイナスの自然利子率は一時的な現象であるという前提。

サマーズのクルーグマン批判

  • マイナスの自然利子率は一時的な現象ではない。

黒田総裁

自然利子率の低下が金融政策の効果を制約する可能性について否定的。

  • 理由(1)ここ3年間、実質金利の低下が効いていた。
  • 理由(2)日本の技術力や労働者の質は高い。

 

マイナス金利政策

  • 予想インフレ率を上げられないなら名目金利を下げればいい。
  • 長期戦へ対応できる金利政策の回帰という点で評価できる。

銀行券との競合

1.銀行の利鞘縮小

  • 預金金利のマイナス化は困難。
  • 貸出金利や債券利回りが低下すれば、利鞘が縮小し経営が困難になる。

2.銀行券の廃止

  • 社会に深く根付いた決済インフラを廃止するのはデメリットが大きい。

QQEとの相性

  • QQEは当座預金を増やす政策だが、マイナス金利当座預金へのペナルティ。
  • 基礎残高への付利には緩和効果がなく金利政策上の位置付けが曖昧。

国債バブル

  • 値上がり期待だけでファンダメンタルズから乖離する典型的なバブル。
  • 日銀が損失覚悟で国債を買うという予想によるもの。

マイナス金利導入と円高

  • 欧州では自国通貨高を阻止するためにマイナス金利が導入された。
  • 日銀も同様の狙いがあったと思われるがむしろ円高が進んだ。
  • 国債情勢、経常収支、対外関係がアベノミクス開始時とは逆であり、円高圧力があった。

 

サプライズ

  • 2014年の追加緩和と2016年のマイナス金利政策

サプライズの問題点

大きく3つの問題点があり、経済を不安定化させる。

1.説明責任

2.想定外の反応があり得る

  • マイナス金利政策の発表で、銀行株の急落、メガバンクのベア凍結、金庫の需要など、想定外の反応が続いた。

3.期待のエスカレート

  • サプライズは次のサプライズを期待させる。

 

必要な政策はなにか

中央銀行関係者は「金融政策で自然利子率を追いかけるべき(実質金利を下げるべき)」と言わない。

  • 金融政策は短期的な景気安定には意味があるが、長期的には自然利子率を低下させるから。
  • 金融緩和の本質は将来使うお金を前倒しして今使わせることなので、需要を先食いした分、将来の自然利子率は低下する。
  • 自然利子率の底上げが必要。

原因と結果の経済学 (中室・津川 2017)

要約

因果関係と相関関係の混同に注意。

 

用語

交絡因子

  • 原因と結果の両方に影響を与える「第3の変数」を交絡因子と呼ぶ。
  • 相関関係の因果関係のように見せてしまう。
  • 経済学の「欠落変数」とかなり近い概念。

共変量

  • 原因と結果でない残り全ての変数。
  • 共変量の中に交絡因子とそうでないものが含まれる。

反事実

  • 実際には起こらなかった「たら・れば」のシナリオのこと。

比較可能

  • 2つのグループにおいて、結果に影響しそうな全ての特徴が似通っていて、介入・政策が唯一の違いとみなせること。

エビデンス

  • 因果関係を示唆する根拠のこと。
  • 一般的には「データを用いた分析に基づいて示された根拠」だが、専門的にはより厳格な意味で用いる。

 

 

因果推論

 因果関係の確認ポイント

1.「全くの偶然」

2.「第3の変数の存在」

  • 「体力のある子どもは学力が高い」という仮説に対して、「親の教育熱心さ」という交絡因子が体力と学力に影響を与えている可能性がある。

3.「逆の因果関係」

  • 警察が多い地域には犯罪も多い。
  • 犯罪が多いから警察が多く配備されていると考える方が理にかなっている。

反事実の必要性

  • 因果推論には、事実と反事実の比較が必要であるが、反事実は観察できない。
  • 反事実を作り出すことが因果推論の根幹にある。
  • 比較可能なグループを作り出し、反事実における結果をもっともらしい値で穴埋めする。

 

ランダム化比較試験

定義

研究対象を介入群と対照群にランダムに割り付けることで2つのグループを比較可能にし、介入群が「もし介入を受けなければどうなっていたか」という反事実を対照群で穴埋めする方法。

なぜ「ランダムに」なのか

セレクションバイアス

  • 人間が行う選択(セレクション)によって、研究対象となる2グループが比較可能でなくなること。
  • 介入群と対照群のどちらに入るかを、自分の意思で選択できなくする必要がある。

グループの規模は重要でない

  • 介入群と対照群がランダムに決定されていれば、グループの規模に違いがあっても問題ない。

研究事例

メタボ健診と長生きの因果関係

  • 健診を受けても長生きにはつながらない。
  • デンマークの研究。
  • 健診を受けた介入群の中で、病気のリスクが高かった人は保健指導を受け、生活習慣が改善された。
  • 生活習慣の改善にも関わらず、介入群と対照群の死亡率の差は統計的に有意でなかった。

メタアナリシス

  • 健診に全く意味がないとは言えない。
  • 糖尿病や高血圧を早期に治療することで、生活の質を改善できる可能性がある。

医療費の自己負担割合と健康の因果関係

  • 自己負担割合を引き上げれば、コンビニ受診を抑制し、医療費を削減できると期待される。
  • ニューハウス(ハーバード大)の'71-'86の実験。
  • 自己負担割合0の対照群と、3種類の自己負担割合を設定した介入群を比較。
  • 自己負担割合が高まると、受診・入院の回数が減り、国全体での医療費が減少する。
  • 自己負担割合と健康状態の因果関係はない。
  • 所得が低く健康状態が悪い人に限れば、自己負担の増加が健康状態を悪化させる。

ホルモン補充医療

  • 男性と比べて女性は動脈硬化による病気リスクが低いが、閉経した女性は心筋梗塞になる確率が上がるため、女性ホルモンが効いているという仮説があった。
  • ホルモン補充医療を受ける介入群と受けない対照群を比較。
  • 介入群は乳がんの発生率が統計的に有意に高い。
  • その後の研究で、ホルモン補充医療を受けると心筋梗塞のリスクが高まることが分かった。

 

自然実験

定義

制度変更や自然災害などの予想されない外生的ショックにより、研究対象が介入群と対照群に自然に分かれた状況を利用する因果推論方法。

研究事例

男性医師は女性医師より優秀?

  • ‘11-‘14年のアメリカのデータ。
  • 担当医の性別で、入院から30日以内に死亡する確率の差の有無を検証。
  • ホスピタリストに注目した。ホスピタリストは患者を選べず患者も担当医を選べないため、患者が男性医師と女性医師にランダムに割り付けられる。
  • 女性医師が担当すると死亡率が0.04%低い。
  • 女性医師の方がガイドラインに沿った診療をする割合が高く、患者とのコミュニケーションも密接であるという過去の研究がある。

出生時体重と健康の因果関係

  • 日本は底出生体重児が多い。
  • アメリカ、ノルウェー、カナダ、台湾などの研究。
  • 出生時体重が重い方が、成績・学歴・収入・健康状態が良好。
  • 日本の研究でも、出生時体重が重いほど中学卒時の成績が良い。

 

差の差分析

定義

差1:介入群の前後比較A(t+1)-A(t)と、差2:対照群の前後比較B(t+1)-B(t)、の「2つの差」の差を求める。

差の差分析の前提条件

1.介入群と対照群が介入前に平行なトレンドを持つ。

2.介入以外の別の変化が起きていない。

前後比較デザインには意味がない

1.トレンドの影響を考慮していない。

  • 放っておいても変化していた可能性がある。

2.平均への回帰

  • 介入前に平均から乖離していれば、平均への回帰が生じる可能性がある。

研究事例

認可保育所数と母親の就業

  • 1990-2010年の日本の県別データ。
  • 保育所定員率と母親の就業には因果関係がない。
  • 原因として、認可保育所が私的な保育サービスを代替しているだけという可能性が考えられる。
  • 保育所の整備が母親の就業を促さなくても、保育の専門家集団であることを考えれば、子どもの発達や健康にはプラスの影響がある可能性はある。
  • アメリカ、フランス、ノルウェーでも同様の結果になっている。

最低賃金と雇用の因果関係

スケアード・ストレート

  • 恐ろしいと感じさせる事で、正しい行動をとることを学ばせるもの。
  • スケアード・ストレートを受講した介入群は受講しなかった対照群よりも、その後の人生で犯罪に関わる確率が高かった。

 

操作変数法

定義

「原因に影響を与えることでしか結果に影響を与えない」という操作変数を用いて、介入群と対照群を比較可能にする方法。

操作変数方の前提条件

1.関連性と

2.操作変数と結果に影響を与える第4の変数が存在しない。

研究事例

テレビの視聴と学力の因果関係

  • ゲンコウらの‘48-'52のアメリカの研究。
  • 操作変数は「‘48-'52にテレビを所有したか否か」。
  • 幼少期にテレビを見ると小学校入学後の偏差値が0.02高い。
  • 特に、英語が母語でない、母親が低学歴、白人でない、などの場合は成績が上がる効果が大きい。
  • 一方で経済的に豊かな家庭では、プラスの効果は小さいかマイナス。

母親の学歴と子どもの健康

  • カリーらのアメリカの研究。
  • 操作変数「17歳時点での自宅と大学の距離」→説明変数「母親の学歴」→被説明変数「子どもの健康」
  • 母親が大卒だと子どもの健康状態がよい。
  • 高学歴な母親は、妊娠中の喫煙率が低く、妊娠健診に行く確率が高い。

女性管理職と企業の成長の因果関係

  • アハーンらのノルウェーの研究。
  • ノルウェーでは「2008年までに女性取締役比率が40%に満たない企業を解散させる」という法律が2003年に施行された。
  • 操作変数「法律施行前の各企業の女性取締役比率」。
  • 女性取締役比率の上昇は企業価値を低下させた。
  • 企業は資質に欠ける女性を取締役にして急場をしのいだため、企業価値が低下した。

 

回帰不連続デザイン

定義

カットオフ値の両サイドで介入群と対照群が分かれる状況を利用して因果関係を推定する方法。

回帰不連続デザインの前提条件

  • カットオフ値の周辺で、結果に影響を与える他のイベントが起きていない。

研究事例

友人の学力と自分の学力の因果関係

  • 友人から受ける影響をピア効果と呼ぶ。
  • アングリスト他のアメリカの研究。
  • 「エリート高校」の入試を、合格ラインぎりぎりで受かった生徒と落ちた生徒のその後の学力を比較。
  • カットオフ値の前後での学力のジャンプはないく、因果関係はない。

チャンスのあるところへの引越し

  • アメリカ政府の政策。
  • 子どものいる貧困家庭を対象に抽選し、当選者は貧困率の低い地域に引っ越せる。
  • 引越し先では学力の高い友人と学校生活を送るが、抽選に外れた子どもたちと比べても学力に有意な差がない。

医療費の自己負担割合と死亡率の因果関係

  • 重岡による日本の研究。
  • 自己負担割合は70歳までは3割で70歳を超えると1割。
  • 70歳前後で外来患者数や入院患者数にジャンプがあるが、死亡率はジャンプしない。
  • ただし重岡の研究では長期的な健康への影響や貧困層への影響を評価していない点には注意が必要。

 

マッチング法

 

定義

結果に影響を与えるような共変量を用いて、対照群の中から介入群によく似たサンプルをマッチさせて、比較する方法。

プロペンシティ・スコア・マッチング

  • 複数の共変量をまとめて1つの得点にし、この得点を用いてマッチングを行う。
  • 介入群と対照群からプロペンシティ・スコアが近いものを順次マッチングする。

マッチング法の前提条件

1.結果に影響を与えるような全ての共変量が数値化されたデータとして存在する。

2.全ての共変量がプロペンシティ・スコアの計算に用いられている。

研究事例

大学の偏差値と収入の因果関係(1)

  • クルーガー他のマッチング法によるアメリカの研究。
  • アメリカでは偏差値ではなくSATスコアを用いる。また、筆記試験以外に高校の成績や推薦状などにより総合的に合否が判断される。
  • A大学とB大学に合格しC大学に不合格だった2人が、片方は偏差値が高いA大学に、他方は偏差値が低いB大学に進学したとする。この2人の収入を比較する。
  • 卒業後の賃金に統計的に有意な差がない。
  • ただし人種的マイノリティや貧困層には当てはまらない。

大学の偏差値と収入の因果関係(2)

  • ブラック他のプロペンシティ・スコア・マッチングによるアメリカの研究。
  • 共変量として、年齢、人種、出生地、成績、出身校の規模、などを用いた。
  • 結果はクルーガー他と同じ。

 

分析の妥当性と限界

妥当性

内的妥当性

  • 内的妥当性とは2つの変数の間に因果関係があることの確からしさを意味する。
  • 研究対象と同一の集団に同一の介入をした場合の、結果の再現性の程度。

外的妥当性

  • 研究対象と異なる集団に同一の介入をした場合の、結果の再現性の程度。
  • 例えばアメリカでの研究結果が日本でそのまま当てはまるかは、慎重に考える必要がある。

ランダム化比較試験の限界

1.費用が大きい

2.外的妥当性の問題

  • ランダム化比較試験では研究対象が厳選される傾向がある。

3.倫理的な問題による実施可能性

  • タバコと癌の因果関係を調べるためにタバコを吸わせるのは難しい。

4.ランダム化失敗

  • 実験計画どとりにランダムに割り付けられなかったり、実験中に対照群から介入群への移動が生じる可能性がある。

5.ランダム化比較試験と現実の相違

  • ランダム化比較試験での結果より実社会に導入したときの効果が小さくなる問題。

強いエビデンス

  • ランダム化比較試験のエビデンスが高いのは、因果関係の確認ポイントを全て満たす確実な方法であるから。
  • 逆に観察データであっても、因果関係の確認ポイントが満たされていれば強いエビデンスとなりうる。

 

留意点

不正確な記述がある模様。

ツイッター @dojin_tw より

第一に図表5-3の「第3の変数が操作変数であるための条件(2)」だが、この「操作変数と結果両方に影響に与えるような第4の変数が存在してはならない」というのは正しくない。「観察不可能な第4の変数」ならば正しい。観察可能な変数ならば、その「第4の変数」を制御した上でIV推定可能。

 

第二に、より些末だが、回帰不連続デザインの前提条件として「カットオフ値の周辺で結果に影響を与えるようなほかのイベントが起きていないこと」とあるが、「カットオフ周辺で結果に影響を与える他のイベント」でも、カットオフでそのイベント発生や影響が不連続に変化しなければ原則問題ないはず。

 

中室・津川(2017)『「原因と結果」の経済学』についてだが、差の差分析の説明についても、ややミスリーディングな記述という印象を受けてしまった(重ねていうが別にあらさがしをしたいわけではない)。それは「1つ目の前提条件」の「並行トレンド」の説明の仕方が厳密には正しくないことだ続

 

承前:「並行トレンド」の前提条件は、"common (parallel) trend assumption"と呼ばれるものだが、これは中室津川本で説明されているように「介入前のトレンドが平行である」ということではなく、正しくは「介入がなければトレンドが平行だったはず」ということ続

 

承前:両者の差は些末に思えるかもしれないが、理屈としては「介入前のトレンドが平行」でも「介入がなければトレンドが平行」が成立しないこともあるし、その逆もまた然り。そして差の差による識別のために必要な仮定はあくまで「介入前」の話ではなく「介入がなければトレンドが平行」という仮定だ続

 

承前:確かに「介入前のトレンドが平行」であれば「介入がなければトレンドが平行(のはず)」という蓋然性も高くなる。であるが故に多くの実証論文(少なくとも上位ジャーナル)では「介入前のトレンドが平行」をチェックする。しかし、それは差の差の妥当性の「間接的なチェック」にすぎない続

 

 

 

 

変容する量的・質的金融緩和 池尾(2016)

激論 マイナス金利政策 (日本経済研究センター) 第10章

要約

  1. QQEの波及経路は不明確で、レジーム・チェンジには力不足だった。
  2. マイナス金利政策はよく考えられたものだが、量的緩和と相性が悪く金融仲介機能に悪影響があり得る。
  3. ヘリコプターマネーは物価水準が数倍になることを許容しない限り維持できない。
  4. 現在の財政・国債管理政策は持続性を欠く。

 

QQEについて

2013年時点での予想

当面は7割程度の確率で、資産価格の大きな変動はみられても、実体経済面ではそれほど劇的な変化は起こらないのではないかと考えている。

なぜこのような予想となったのか

中央銀行がコミットメントし、マネタリーベースを増やせば予想インフレ率は上昇する」というロジックが説得的でない。

  • マネタリーベースを増やせば予想インフレ率が上昇するという議論は、ゼロ金利制約の限界を無視している。
  • ただし人々の予想は必ずしも合理的でないため予想の非連続的な変化(レジーム・チェンジ)は起こりうるが、QQEは結果としてマグニチュード不足だった。

QQEの成果

1.円高の是正は大きな成果

  • 2011年以降の経常黒字縮小、欧州の信用不安の低下など、円相場が修正される要因はあった。
  • 円相場がファンダメンタルズに回帰するきっかけを作ったが、マネタリーベースを増やしたから円安になったというものではない。

2.2013年の景気上振れ

  • 財政要因が大きかった。
  • 第2の矢、消費税増税の駆け込み需要。

短期決戦型

  • レジーム・チェンジが起こるとすれば3ヶ月とか半年なので、この間に起こらなければ長く続けても起こらない。
  • 日銀も短期でケリをつけるつもりで「2年で2%」と言ったのではないか。

 

金融緩和の理論

基本的な議論

中央銀行が民間銀行から国債を買うと、(1)中央銀行B/S(ベースマネー)が拡大する、(2)民間銀行のB/Sとマネーストックは拡大しない、(3)統合政府のB/S上で財政赤字ファイナンスするマネタリーベースの割合が増え市中消化国債の割合が減る。

  • 中央銀行と民間銀行の国債売買は内部取引に過ぎない。
  • ゼロ金利制約下での金融緩和は短期金利が下限に達した中で長期金利を低下させるため利鞘を圧縮し、銀行が金融仲介活動を拡大させるインセンティブとならない。
  • 従って非伝統的金融政策では民間銀行の貸出は増えずマネーストックも増えない。
  • マイナス金利政策は銀行の利鞘が圧縮する効果を強化するため、金融仲介機能が弱体化しかねない。

 

ヘリコプターマネー

名目と実質の区別

銀行部門が国債を購入すると名目的な信用創造としては必ず起こり、預金とマネーストックが増える。名目的な信用創造を裏付ける実質的な貯蓄が存在するかが問題となる。

貨幣発行益

  • マネタリーベースは返還義務がないのでその発行で財政赤字ファイナンスできる、日銀は国債を永久に保有できるという議論が存在する。
  • 日銀が国債を永久に保有するということは、発行したマネタリーベースを恒久的に減らさないということであり、これはインフレが進行しても引き締めを行わないことを意味するので、将来的な物価の高騰を覚悟しなければ実行できない。
  • 金融引き締めの際に、マネタリーベースを回収し準備預金の付利を上げれば、恒久的に貨幣発行益を得られるわけではない。

通貨発行益というのは(略)民間部門の貯蓄が裏付けです。民間部門が貯蓄の一部を使わずに貨幣のまま保有すれば、その分を政府や中央銀行が使えるというのが通貨発行益です。…略…貯蓄がないのに信用創造で貨幣を増やせば、それは悪性のインフレにつながることになります。

  • 現時点では民間貯蓄で財政赤字を賄えているが、民間貯蓄が減り始めると問題となる。

 

金融政策と財政政策の関係

金融政策と財政政策が能動的か受動的かで物価の決定に4パターンが存在する。

1.ハイパーインフレ

  • 両方が能動的になると均衡が存在しなくなる。

2.マネタリー・ドミナンス

  • 金融政策が能動的で財政政策受動的。
  • 金融政策で物価が決まる。

3.フィスカル・ドミナンス

  • 財政政策が能動的で金融政策が受動的。
  • 池尾先生「日本の現状はフィスカル・ドミナンスの組み合わせになっているのではないか」。
  • 政府がデフォルトしかねないとき中央銀行は貨幣量を絞れないはずなので、国内貯蓄が枯渇してくる中でフィスカル・ドミナンスが続くと高インフレが生じる可能性がある。

4.複数均衡

  • 両方が受動的だと均衡が不決定になる。

 

 

 

非伝統的金融政策に限界はあるか、マイナス金利を中心として 伊藤隆敏(2016)

激論 マイナス金利政策 (日本経済研究センター)第7章

 

要約

  1. 日銀のマイナス金利政策は銀行界の反発が大きいものの、為替・株価に一定の効果はあった。
  2. ヘリコプターマネーは通貨発行益の先取りに過ぎない。
  3. 財政出動には財政の持続可能性から限界があるため、潜在成長率の向上を目指すべき。

 

QQEの意義

アベノミクスの最初の1年半の間に円レートを1ドル=120円までもっていき、株価は2万円までもっていった。これは華々しい最初の成果になるわけです。

量的緩和(1つ目のQ)の効果

  • 世界金融危機以降、主要先進国がバランスシートを拡大させる中で日銀だけ何もしなかったことが極端な円高を引き起こした。
  • 量的緩和によってこれを巻き戻した。

質的緩和(2つ目のQ)の効果

  • 第一に長期国債を買い満期構成を変えたことで長期金利を直接引き下げた。
  • ETF購入は株価を、REIT購入は不動産価格を押し上げる。

マイナス金利政策の効果

2015年夏あたりから、効果が薄れたのか世界情勢の変化からか、調子が悪くなってきた中で採用された。

1.銀行界の反発

  • イールドカーブがフラット化しさらにマイナスに沈んでいくため、国債運用ができなくなる。
  • 預金金利はマイナスにできないため利鞘が縮小する。

2.日銀の主張・思惑

  • マイナス金利が適用される部分は小さい。
  • 国債運用が難しいなら貸出を増やすなり、株式や外債を買うなりして欲しい。

3.評価

  • 一般的には失敗したとみられている。
  • 伊藤先生は2営業日は効いたが、それ以降はそれを打ち消すような外的要因で円高・株安になったと評価している。

新しいニュースが出て、それが相場を動かす、ということです。新しいニュースが出た効果、その新しいニュースが織り込まれるまでには1日間2日しかかからないのです。それが継続している時期というのは、継続して新しいニュースが出ている時期なのです。したがってマイナス金利をポーンと入れて、それで効果が出たのが2日間というのは当たり前、2日しかもたなかったというのは不思議でも何でもなく、そういうものなのです。

QQEの限界

1.弾の出尽くし

  • 非伝統的金融政策の最新手段であるマイナス金利かま失敗したので、非伝統的金融政策もこれで弾が出尽くしたという議論になる。

2.国債購入の限界

  • すでに30%を買っていて、あと2年ほどで50%になる。
  • 黒田総裁「100%買ったって何の問題もない」。

3.非伝統的金融資産の購入

  • 日銀が池の中のクジラになり官製相場ではないかとの意見があり、国債以外で日銀が買えるような証券化商品は多くない。

もともと反対だった人たちはともかく、サポートしている人たちの中でも不安になっている人が増えてきた、というのが現状であります。

 まだできることはある

「貸出増加を支援するための資金供給」

  • 銀行が貸出を増やしたら、その増やした分は日銀が自動的にその銀行へ低金利で貸し出す。
  • 銀行界も賛成してくれるはず。
  • ECBやBOEもやっている。

 

ヘリコプターマネー

  •  議論のスタートは、「金融政策には限界があるから次は財政政策だ」。
  • 伊藤隆敏先生のヘリコプターマネーは「ゼロクーポンの永久債」。

ゼロクーポンの永久債

  • 日銀の負債になる現金を増やすには、それにあたる資産を与える必要がある。
  • 通常の国債を発行しては財政部門の債務が増えるので、ゼロクーポンで償還されない永久債を渡せばいい。
  • ゼロ金利の永久債だからゼロクーポンの永久債は政府紙幣の発行と同じ。
  • 2003年頃にスティグリッツなどが提案していたものの変形。

ヘリコプターマネーは通貨発行益の先取り

  • 現金の裏にある国債からの金利収入が通貨発行益となっていて、それを財政部門に上納すればヘリコプターマネーとなる。
  • この意味ではすでにヘリコプターマネーの一部は成り立っている。
  • 国債の代わりにゼロクーポン永久債を持つと、通貨発行益がなくなり上納もできない。
  • 政府は将来の上納を前倒しして今もらってしまうだけ。

 

インフレ目標の未達

原油価格の低下

  • 日銀版コアでは約1%まできている。
  • 黒田総裁は原油価格は下げ止まったと見ている。

賃金引き上げの不調

  • 労働市場は逼迫している。
  • 労働市場の逼迫が賃金に反映されてくればインフレ率も上がってくる。

 

潜在成長率について

日本は不況なのか?

  • マイナス成長であっても、潜在成長率からわずか0.5ポイント低いだけ。
  • 潜在成長率が低いことが問題。

どうやって潜在成長率をあげるのか?

  • 潜在成長率低下の大きな原因は労働人口の減少なので、外国人・高齢者・女性の労働参加率をあげる必要がある。
  • 生産性の向上をは特にサービス業で上げられる。

 

 

労働経済学で考える働き方 (経済セミナー2016年12-2017年1)

長時間労働の原因と是正(山本勲)

 超高齢社会で懸念される人手不足に対処するには、女性や高齢者などの多様な人材が労働市場で活躍できる必要があり、そのためには正社員でも効率的に短い時間で働ける環境が必要である。

長時間労働の要因

・労働需要要因

1.労働の固定費の大きさ

労働の固定費用:採用・解雇費用や人的投資(教育訓練)などの労働時間に関わりなく生じる労働者一人当たりの費用を固定費用という。

説明1

生産関数において労働時間(1)雇用者数(2)を別の生産要素と考える。

(1)労働時間(残業の場合)の限界費用=割増賃金率×賃金

(2)雇用者数の限界費用=1人当たり賃金+労働の固定費用

労働の固定費用が相対的に大きければ雇用者数を押さえて労働時間を長くすることが企業にとって合理的となる。

説明2「残業の糊代説」

固定費用が大きいと景気後退期に雇用者数を減らすのは大きな雇用調整費用(解雇費用など)が生じるため、雇用を維持し労働時間を削減することで人件費調整を行う。そのためには平時において十分な長時間労働を確保しておく必要がある。

→日本は労働の固定費用が大きいと考えられる。 

2.人的資源管理の非効率性

日本的雇用慣行の下で定着した長時間労働が常態化し、働き方が硬直化。

3.労働者の交渉力の低さ

労働時間の決定に労働需要側の影響が強く反映され、固定費や非効率な人的資源管理に起因する長時間労働が顕在化しやすい。

企業特殊スキルを身に付けた労働者は転職の交渉力が低くなる。

 

・労働供給要因

1.労働重視の選好

消費を重視する家計は余暇時間が短く労働時間が長くなる。

2.心理・性格特性

行動経済学的な分析:大竹・奥平(2008)など

3.負の外部性

上司・同僚がワーカホリック

4.昇進競争

長時間労働が 企業へのロイヤリティやコミットメントとして機能する。

 

是正策

 ・非効率性によって生じている部分をなくすことを目指すことが重要。

・労働時間の上限規制の強化や法令順守の徹底。

・労働時間を減らしても生み出せる付加価値が減らない効率的な働き方へ転換する必要がある。

 

 

変わりつつある雇用形態(久米功一)

 労働の多様化がすすみ非正規雇用が拡大した。

非正規雇用拡大の要因

・労働需要要因

財・サービス市場の不確実性の高まるなかで需要や収益の変化に応じて労働費用を調整したい企業の存在。

・労働供給要因

自分の集うに合わせて時間や雇用形態を調整できる。

・制度的要因

1996年の労働者派遣法改正など。

 

非正規雇用の実態

1.不本意就労

非正規雇用の16.9%。

2.正社員転換の困難

3.社会的排除

社会保険・年金・退職金などの社会制度へのアクセス制限がる。

4.仕事満足度

パート・アルバイトの仕事満足度は高い(久米・大竹・鶴(2014))。

5.補償賃金

6.制度的揺り戻し

2012年の日雇い派遣の原則禁止など。

 

多様な正社員の進展

職務・勤務地・労働時間等を限定した正社員の活用が進められている。

・働き方を限定することで、賃金低下、スキル蓄積の阻害、昇進・昇格の減少などが懸念されている。

・と様な働き方を推進するうえでスキルアップの機会確保が労使双方の課題。

 

 

賃金はどう決まるのか(柿澤寿信)

 同一労働同一賃金と職務給

個々の職務の価値評価に基づく賃金決定で一般に「職務給」 と呼ばれ、特に非正規雇用の賃金格差是正として取り上げられている。

・職務を点数化し、同水準の職務には同水準の賃金が支払われるべきと考える。

・標準的な経済理論では均衡賃金率は一意に決まるためおのずと同一労働同一賃金となる。

 

日本における賃金決定の現状

職務給は主流と言えるほどには普及しておらず、様々な要素が賃金決定の根拠とされている。

・個人の能力、仕事の業績、学力、勤続年数など

 

賃金決定の理論

・標準的な経済理論

企業:賃金率=限界収入

家計:余暇と消費の限界代替率=実質賃金率

→均衡賃金率が一意

・その他の理論

1.就労条件の違い

同じ職務でも転勤の可能性のなど、悪条件であれば労働者の留保賃金が高くなるので限界収入に補償賃金プレミアムを加えた賃金が均衡賃金となる。結果として悪条件であるほど賃金が高くなる均衡状態が生じる。

2.人的資本投資

興味深いのは企業特殊技能のケース。企業特殊技能は他の企業では役に立たないので、企業特殊技能の訓練を受けた労働者は訓練前の限界収入(₌他社で得られる賃金)より賃金が高まれば、限界収入より多少低くても受諾する。すなわち、転職時の賃金<実際の賃金<理論上の均衡賃金、となる。

3.モラルハザードと効率賃金仮説

努力してもしなくても期待賃金に大きな違いがないならば労働者は努力しない(モラルハザード)。努力の有無で期待効用が大きく差がつくようにインセンティブ設定をすることが必要。「効率賃金の設定は有効である」という経済実験がある。

 

 

最低賃金とは何か(森知晴)

近年の最低賃金の動向

・2006年から2016年の10年間で150円(673→823)22.2%上昇した。

労働市場全体ではほとんど賃金が変化していない。

・インフレ率も10年で2%。

・政府や内閣の移行が強く反映された結果。

 

理論的考察

(1)すべての労働者に恩恵があるのは、雇用を失う人の損失がない場合と買手独占の場合。(2)そうでない場合にも大部分の労働者は恩恵を受けるが失業する労働者は大きな損失となる。(3)賃金を得られる労働者の「賃金格差」は縮小するが、全体の「所得格差」は拡大する。

・完全競争市場

最低賃金導入によって労働量は減少し失業が生じる。しかし大部分の雇用は維持され賃金が上がる。職を失う人の留保賃金が高い(失業の損失が少ない)場合のみ最低賃金が正当化される。

・買手独占市場(企業が1社だけ)

均衡価格が労働の限界生産性を下回っているので、最低賃金導入で均衡賃金上がり労働量も増加する。買手独占市場では最低賃金が正当化されるが、最低賃金周辺の労働で書いて独占となっているとは考えにくい。

・異質的労働者

生産性が異なり代替性のある労働者を想定すれば、生産性が低く均衡賃金が最低賃金より低い労働者の賃金だけを引き上げる。そして賃金の上昇で費用の高まった低生産性労働者から高生産性労働者へ需要が代替される。同質を仮定するより大きな労働者間格差を生み出す。

・効率賃金などの賃金体系

基準となる賃金が上がるので効率賃金に上昇圧力がかかる。昇給などの賃金体系で努力を引き出している場合にも、賃金体系全体への上昇圧力となる。

 

実証研究

 ・Neumark and Wascher(2008)のサーベイ

最低賃金の雇用に与える影響は負とする研究が役2/3。

・鶴(2013)のサーベイ

雇用に悪影響を与えるとする研究が多い。

 

経済学者の見解

最低賃金労働市場全体をみると悪影響(失業率の上昇)を及ぼしている可能性が高く、この悪影響は一部の労働者に偏る。経済学者はこの狭い層への悪影響を重要視している。

 

 

就職活動時期の後ろ倒しは効果があったのか?(奥平寛子)

実証分析の結果

・学生は人的資本投資を増やさない

3年生は参加授業数と投稿日数を増やさず、2年生は両方を減らす。

・卒業時点の就業率を上昇させる

ただしこの点の評価には注意が必要。